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「あえて、ムードのない場所を選んだでしょう? ライブのせいで、妙に気持ちが高揚しているから、流されたくないって意図は分かりますよ。俺も流されて欲しいわけではないし」
うう。そんなとこまで。見え見えだったかな? 石崎君は私のおちょこにお酒を注ぐ。
「切り札を並べて下さい」
私は注がれたお酒を一気にあおって話し始めた。
「なんで私なの? みんなご存知の通りの三十女よ。一般的にもヘビー級に重いと思うんだけど」
「重くない女なんて世にも稀な存在ですよ。年は関係ない。重く見せないようにしている人が大半ですよ」
金メダル級のレシーブが返ってきた。確かにそうかもしれない。
「それに、安西さんがいるから転職した俺の方が一般的にはよっぽど重いはずですよ」
うーん。それもそうかもしれない。
「なんで安西さんなのかってことですけど、自分でもよくわからないですが本能的な物ですかね? 一緒にいると感情を掻き立てられるんです」
そうなの? くどくど理由述べられるより、そっちの方が妙に説得力あって恐いな。
「上司と部下だよ? うまくいかなかったら、まずいとか思わないの?」
「もし、どうなっても、会社は辞めないと誓ったら、いいですか? なんだったら、契約書とか作りますか? 本上さんが喜びそうなのが癪に障りますけど」
困ったなあ。ここまで先回りされてると。
正直になるしかないかも。
「私ね。誰も好きになれない人間なのかもしれないんだよ? ここ数年あいまいな気持ちしか持ったことないし、それで相手を傷つけてきたんだよ? おまけに仕事以上に何かを優先できないし」
そうなのだ。私は恋愛感情が欠落しているのかもしれない。でも女には自分のことを好きだと言ってくれる人が必要な時がある。誰かに側に居てもらいたくなる時がある。そういう時に彼氏を作ってみた事が何度か、あることはあった。
けれどそんな関係はやっぱり上手くいくはずなかった。そして、たいした恋愛でなくても、「関係」が上手く行かないというのは、精神的にダメージが大きい。だから、あえて一人でいるんだけどなあ。
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