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一人で居るのはもう私の生活の一部として浸透しつつある「髪のないラプンツェル」になるのが自分にとってベストな事ではないだろうかと思っているのは否定できない。麻衣子は認めてくれないけれど。
石崎くんは今日一番の優しい微笑みを浮かべた。
「思ったより、早く本音が聞けてうれしいです」
「え?」
なに? 石崎くん、私がこう言うってこと分かってたの? 私は戸惑いを隠せない。
「安西さんは人を好きになれないわけじゃない。むしろ相手にのめり込んで失うのを無意識に怖がっているように見えますけど」
私が反論の言葉を探していると、石崎君はそれを優しく遮った。
「大丈夫ですよ。貴女を傷つけるようなへまはしませんから」
ああ。この人の『好き』は本物かもしれない。情熱があるもの。しかも私のややこしい部分を全部分かった上で私みたいな重荷を引き受けると言っているんだ。こんな人を傷つけちゃいけない。断るべきだ。
でも、自分の残酷な部分が、すべてを分かった上でいいと言うなら試す価値はあるとも言う。もしかしたら、まともな恋愛感情が抱ける可能性があるかもしれない?
それにこんな事を理解した上で付き合いたいという人は稀有な存在だ。私が深刻な顔つきで考えていると、石崎くんがしたり顔でこう言った。
「とりあえず、お試しで付き合ってみませんか? セックスはなしで」
「石崎君」
何だか全てを見透かされているみたいだね。
「どう転んでも、会社は辞めないでくれる?」
「動機は不純でしたけど、この仕事気に入ってますしね」
私は深く息を吐いた。
「分かった。とりあえず、お試しで付き合ってみる」
私は腹をくくり、こうして、まるで契約書にハンコを押すかのような形でお付き合いが始まることになった。
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