5 case study 百合江の過去

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クリスマスから、すぐに仕事納めになり、長野の実家に帰った。 お正月休みは毎年、お父さんと二人きりだ。お正月くらいしか帰れないから、お父さんと話はつきなかった。 二人で、年越し蕎麦を食べたり、私が通販で注文しておいた御節料理を食べたり、日本酒を飲んで、いつもと変わらない、お正月を過ごしてから、東京に戻る間際にお父さんはとても聞きにくそうにこう尋ねた。 「百合江。お前、三十になったんだし、結婚とかは? まあお前が毎日充実しているのなら、一人でもいいのかもしれないが」   そう尋ねられたので、一応お付き合いしている人はいる。と答えておいた。   親って不思議。 ある時期までは彼氏とかいなくていいみたいに言うのに、ある時期からは、男の影がないと逆に心配する。お父さんは、私に彼氏が居ると聞いて、少しほっとしたみたいだった。 「そうか」   そう小さく呟いた。 一応健吾とはお試しとはいえ、付き合っているのだから、嘘ではない。嘘ではないけど。 「結婚かあ」   お父さんが期待してんのはそこなんだろうなあ。一応社会的には、成功している部類に入ると思うんだけどな私。 それでも、お父さんの望みは私が家庭を持つことなのか。そんな事をお父さんが望むようになるなんて。実家を出てからの十年あまりで、変わったのは自分だけではないってことなんだろうな。 目に見える変化もある。お父さんの白髪がここ数年で増えた。あまり見ないようにしていた事実だけれど、もうじきお父さんは定年だ。 色々話をしたけれど、一番お父さんが話したかったのは、この事だったのかもしれないと思うと、気持ちが重くなる。いつからだろう? 結婚して家庭を築くと言う事が、自分にとって、とてつもなく遠い場所にあるようになってしまったのは。   うーん。 .
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