高2、香り

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高2、春 「阿蘇(アソ)ーー!!」 昼休みの教室に響き渡る楽しげな女の子の声。 視界の隅に、茶色い髪の女子生徒が小走りで教室に入ってくるのが見えた。 向かう先はわかりきってる。 「ねぇ~この前頼んだCD持ってきてくれたぁ~?」 …おぇ 甘えるような声につい吐き気を覚え、ヘッドホンで耳障りな音を遮断。 大好きなバンドの曲を聴きながら、窓の外へと顔を向ける。 校門の外に続く、春の暖かな日差しを浴びる淡い色の桜並木。 その景色と音楽。 教室にいる間の、数少ない私の癒し。 少しだけ開けた窓の隙間から微かに流れ込んでくる春の香りに、目を閉じて酔いしれる。 「ちょっと!ちづ!聞いてんの!?」 突然、音楽が途切れて代わりに聞こえたのは由里子(ユリコ)の不満げな声。 視線を向けるとそこにはやはり不満げな彼女の顔がある。 「ごめん音楽しか聴いてなかった」 机の上に転がったヘッドホンを拾い上げると、ピシャリとその手を叩かれた。
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