61人が本棚に入れています
本棚に追加
高2、春
「阿蘇(アソ)ーー!!」
昼休みの教室に響き渡る楽しげな女の子の声。
視界の隅に、茶色い髪の女子生徒が小走りで教室に入ってくるのが見えた。
向かう先はわかりきってる。
「ねぇ~この前頼んだCD持ってきてくれたぁ~?」
…おぇ
甘えるような声につい吐き気を覚え、ヘッドホンで耳障りな音を遮断。
大好きなバンドの曲を聴きながら、窓の外へと顔を向ける。
校門の外に続く、春の暖かな日差しを浴びる淡い色の桜並木。
その景色と音楽。
教室にいる間の、数少ない私の癒し。
少しだけ開けた窓の隙間から微かに流れ込んでくる春の香りに、目を閉じて酔いしれる。
「ちょっと!ちづ!聞いてんの!?」
突然、音楽が途切れて代わりに聞こえたのは由里子(ユリコ)の不満げな声。
視線を向けるとそこにはやはり不満げな彼女の顔がある。
「ごめん音楽しか聴いてなかった」
机の上に転がったヘッドホンを拾い上げると、ピシャリとその手を叩かれた。
最初のコメントを投稿しよう!