ヒーローの宿命

4/4
前へ
/15ページ
次へ
あれから数年、新たな悪者は出てきていない。俺も家族との平穏の生活を送っていた。 だが、平和とは言えなくなっていた。 なぜなら小悪が増えたからだ。盗みや強盗、恐喝、毎日のニュースはそんな事で溢れていた。 ブラックマントがいた時代は大悪が小悪の抑止力として働いていたのかも知れない。 それもそうだ。自分達の悪とするものが明確なら、人はそれに恐怖を覚え、立ち向かい共存できる。 俺はふと思う。ブラックマントいた時代、実はあれこそ平和だったのではと。。。 俺はあれから飲まなくなった苦いコーヒーを入れ、口をつけた。 「あら?あなたがコーヒーを飲むなんて久しぶりね」 妻がからかうような笑顔で言う。 「あぁ、久しぶりに飲みたくなったんだ」 俺はコーヒーを飲み干すと、息子を呼んだ! 「なんだい?父さん?」 「お前も大きくなったなぁ。・・・お前に伝えておきたい事があってな!もし、また悪者が現れた時は、・・・その時はお前が戦うんだ!」 「父さん大丈夫だよ!もう悪者は出てこないさ!」 屈託のない表情で息子が笑う。 「…そうだな。でも、お前には伝えておかなくてはならないんだ。父さんの父親がそうしたように」 俺は数ヶ月をかけ、息子にヒーローの力と宿命を託した。 「よしっ!これでお前もヒーローだ!」 「あぁ父さん!もし悪者が出てきたら僕に任してよ!」 「・・・頼んだぞ!」 その日の晩、俺はまた苦いコーヒーを入れた。 平穏を迎えたこの家での想い出をかみ締めながら。 これがヒーローとしての宿命か・・・。そうだろ、父さん? 俺はそう呟きながらコーヒーを飲み干し静かに家を出た。 黒いマントを持って…。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加