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それでも僕は知っている。
人形が何を言っているのかを。どうしてそんなことを言っているのかすらも。
少女が笑っている。
その少女の周りをよく見ると、何か細かいものがいくつも転がっているのがわかる。
その正体は人形を見れば明らか。
人形には右の手首がない。左手の指が三本しかない。右の足の先が半分ほどない。左足は膝から下がない。
そしてその断面からは黒く見える赤が流れ出していて、転がっているものの周りのベッドも染まっているのだから、それが何かなんて考えるまでもない。
そして少女が言う。ここからでは少女の顔は見えないが、声は高くなったり低くなったり大きくなったり小さくなったりして、安定していない。
「わたしの、お人形さん。……大切にたいせつに……だから、わたしと一緒にいてね? だから、だから……」
『お前を』
「次はどこを切り落とすっ!!」
突然少女は叫び、はさみを人形の左の前腕に突き立てた。
そこから黒い液体が噴出して、少女の顔や服を濡らす。
「あ、はっ……」
少女は再び笑い出す。
「怪我しちゃった! 怪我しちゃった! 早く直さなきゃ! わたしがわたしがわたしが! 直してあげるからじっとしててね?」
そして少女ははさみでシーツを切り裂いて、乱暴に人形に押し付けた。
『お前……』
人形の口が塞がれて声が途切れる。
少女はみるみる染みが広がっていくシーツの上から、笑い声を洩らしながら人形を抱きしめた。
その光景を、僕は知っていた。
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