僕の彼女の僕の世界

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 目を開けた僕の目の前には、すやすやと眠るあどけない少女の顔があった。  その顔には暗闇の中では黒っぽい汚れが何箇所かついている。  きれいだ。  僕はそう思った。  それに対して僕の姿は醜いものだろう。麻痺した感覚の中でも時折走る鈍い痛みがそれを教えてくれる。  生きている僕が得られないものは至る所にある。それは、絶望だ。  少女が薄く目を開いて僕を見る。僕はその目に微笑みかける。  そして愛の言葉でも囁くように声を出す。 「お前を殺す」  少女は僕を突き飛ばして、そして大きな高い声で笑い出す。僕はその瞳に恐怖と狂気を見出した。  少女は笑い、そうしながら泣いて、叫びながらはさみを僕の右肩に突き刺した。 「殺さないで! 殺さないで! 殺さないで!」  血が飛び散る。  僕も笑う。彼女とは対照的に声を出すことなく。  そして静かに繰り返す。 「お前を殺す」  少女は笑って笑って笑いながら、僕の体にはさみを突き刺し、引き抜いては突き刺す。 「お前を殺すお前を殺すお前を殺すお前を殺すお前を……」  僕は何度も何度も同じ事を言い続け、少女はそれを掻き消そうとするように笑い、はさみを突き立てる。  そう、もうすぐ。  もうすぐだ。  だから。  だから、早く。  早く。  さあ、早く――、 「僕を殺せ!」  少女はそのとき目をかっと見開き――、  そして僕は笑うことを止め――、  ――後には静かな世界が訪れた。  ―了―
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