kiss 5 [1万回の其の先に在るもの]

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食事の皿は 綺麗さっぱり片付けられ、 食後のコーヒーが テーブルの上に置かれていた。 既に湯気は失われて、 冷さざめとしている黒い液体が、 象牙色のカップに漂っている。 カップの中身を空にした成宮氏。 手付かずのままの 黒い液体を覗いている私。 眼前で、 オレンジ色の照明を受けて 輝いていた赤い鉄のタワーは、 既に黒い影を落とし、闇と同化していた。 無言のまま、 デートはもうすぐ終わりを迎える。 本日、 社会人としての無知さも アピールしたことで、 彼に気に入られることは無いだろう。 今日誘ってくれたのだって、 何かの間違いのような 気がしてならなかった。 気に入られる話題を振ったり、 好かれる服を選んだり、 笑顔でへつらったりする全ては、 無駄な努力でしかない。 だって私。 この人に気に入られたいって 思ってない。 この人と付き合いたいって 思ってない。 馬鹿にされたから? 鼻で笑われたから? 違う。違う。 彼のこと 全然知りたいと思わないから。 多分 最初のあのアクションで、 彼という人間は、 既に私の中で形成されている。 と、いうより 最初のあの時から私は、 この人のことを、 気に食わないって思ってる。 普段なら 聞かないで終わらせるんだけど、 今日は何だかちょっと 攻撃的になってる。 もう、別に 嫌われたってイイや!! .
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