kiss 9 [正直しんどい]

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「名刺を、ケータイの待ち受けにするって、 どれだけそいつの事好きなんだよ」 小栗が馬鹿にしたように、言葉を放る。 「悪かったわね。アンタの周りを囲む女子と違って、 私は好きな人に対して謙虚なんです」 思わず反論。高嶋さんとのツーショット写真なんて、 軽々しく「待ち受けにしたいんですぅ~お願いしまーす!!」なーんて 頼めないのよ(小心者だから) ふてくされていると、 小栗は、私の顔を、さも面白いものでも見るかのようにまじまじと眺めていた。 「ふーん。佐藤の好きな奴って、あの、刑事さんなんだぁ」 う..... やばい。口滑った....。 悪魔の微笑を湛えた小栗が、私の顔を覗き込んだ。 「ふーん。佐藤って面食いなんだな」 嬉しそうに呟く小栗に反論の余地無しです。 「好きなんだ。あの刑事さんのこと」 小栗が再度私に確認をする。 今更否定は出来ない。 「....うん」 好き......だよ。 小栗に言った後、胸の奥が、きゅうと縮こまった気がした。 「そろそろ、行く時間だぞ」 そういって小栗は私の頭にポンと手を置いたあと、さっと席を立った。 「うん。急ぐ」 小栗は普段と変わらず、 新聞を丁寧に折りたたんで、洗面所へと消えた。 私は何処か胸の奥に冷たい風が通り過ぎていく気がして、 でもその風が、何処からやってきて、どうして、私を巻き込んだのか、 判らなかったけれど、 「友達です」っていう言葉。 小栗の口から聞きたくなかったよ。 「高嶋さんが好き」って言う気持ち。 知られたくなかった。 私と小栗の間に在る境界線の存在を、なんだか再確認。
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