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☆☆☆
思い出すのは彼の冷たい瞳。
「愛してる」
言葉の奥に隠される私に対する、怒り、不快感。
蛇蝎の如く嫌悪されている私に、
もう二度と以前と同じ笑顔を見せてはくれない。
嘘偽りの「愛している」よりも、ずっと激しい苦しみに苛まれている。
「さよなら」
彼の背中が離れていく。
私から、見えない場所へと、彼は消える。
「待って.....」
「待って! 行かないで!! 待ってぇぇぇ~~~!!!」
飛び起きたのは、我が家のベッドではなく、
会社のデスク。
はあ......また、やっちまった。
最初に笑いを堪えられなかったのは大野君。
そして次々に笑いが起きる。
「ったく、佐藤、寝言デケーよ」
と、おじ様、田中様。
「はいはい、佐藤のために待ってやって頂けますか?」
と、
外勤に出ようと鞄を手にしていた若月さんを席へと戻す、神田さん。
渋々、席に何故か座った若月さん(なんで??)
杉田君も笑いを堪えてる。
そして隣で無言の小栗。
口をム一文字にして、私を睨んでまた俯いた。
いつもなら真っ先に笑うのに.......。
今日は笑いもパソコンもシャットダウン。
というのも、本日今朝方、小栗のPCはクラッシュした。
理由は巷で流行のUSB感染型ウイルス。
自分のPCで仕事をしたものをそのまま会社のパソコンに接続、そこからウイルスが蔓延したらしい。
幸いデータ拡散タイプではなかったため、社外にデータが飛んだわけではなく、
画面を立ち上げた途端、フリーズ。
そして画面は真っ暗なまま、立ち上がらなくなった。
今日の午後に技術班が、データ修復と抽出作業を行うが、
念のため全PCのデータバックアップおよびウイルス駆除を行うことにより、
本日第二営業部全員の事務仕事は、ほぼ手付かずとなっている。
其の原因を作った小栗は、
社内PC使用の規定に違反したことにより、
コンプラ部からお小言プラス、
始末書を書かされ、かなりのダメージを受けていた。
小栗から貰ったUSBは、残念ながら廃棄だな......。
「はあ~」
小栗が背後で溜め息をつく。
今日ばかりは、小栗の調子は回復しないだろう。
そして小栗を癒すのは、彼女の役目だ。
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