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「おっほん」
......?
「おっほん」
.......?
「もしもし?」
背後から、声をかけられた。
もしや、職質?
「私は不審者ではありません!!」
と
言おうとしたところ、
見慣れた顔を見て悲鳴を上げそうになる。
見慣れた顔とは、
つい先ほどまで、ニンニクまみれになっていたあいつだ。
きょとんとした顔をして、小栗が私に尋ねた。
「なにしてんの? 佐藤」
思わず指差して、叫ぶ。
「あんたこそ! 何してんの!」
手に取った、ポカリのペットボトルの蓋を閉じながら小栗がいう。
「別に、ちょっと一服してから電車に乗ろうかと思ったら、
変質者が、覗きやってるからさ、念のため、声掛けただけ」
変質者? っって....私のことか....。
先日の小栗とのやり取りを思い出した。
あれ以来、
小栗と話すのは、ちょっと苦手だ。
「デートは? 遅刻するよ」
さっさとココから立ち去って下さい。
「ああ。あれ? 嘘に決まってんだろ?」
平然と嘘をバラス小栗。
「うそ??」
なんだと!!
また冷ややかな視線で、私を見た。
其の目が恐くて、ほんの少し後ずさる。
口元には蔑んだ含み笑いが湛えられていた。
「杉田もお前の仲間だからな。くっつけようって魂胆見え見え。
女が居るってわかったら、あっちも諦めるだろ?」
冷酷さながらの表情で、私の計画が全てお見通しであることを告げる。
店内では、職場の仲のいい同僚の姿を演じていたのに、
二人きりになった途端、
小栗の笑顔は、立ち消えてしまう。
私への嫌悪の様子を再実感して、
鼻の奥が、つんと、鈍く痛んだ。
泣きたくなんか無いのに、
胸の奥から湧き上がるのは、
自分ではどうにもならない、小栗と私との距離感。
それでも、
どうにか、普段の私を演じる。
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