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☆☆☆
やってきたのは吉祥寺にある、
天然温泉のスパ。
レーナと裸の付き合いをするのは、大学の卒業旅行以来かもしれない。
手ぶらでやって来た私達だったが、
メイク落としから、室内着、何から何までホテル並に揃っている。
月夜を眺めながら大浴場で足を存分に伸ばしてくつろぐと、
縮こまっていた感情が解れて行くのを感じた。
「アーーー。気持ちいい~~」
湯船の中で、思い切り伸びをする。
「温泉なんか久しぶりぃ」
「うん、たまにはいいね~。こういう女子会もさ」
レーナが私の意見に賛同する。
「うん」と私は微笑み、レーナも子供のように、はにかんだ。
「知ってる?」
「なに?」
「キス一回で、モルヒネの10倍の鎮痛効果あるんだって~」
「モルヒネ10倍....」
「しかもキス一回につき、
ストレスが3分の1も解消出来て、
出勤前にキスするカップルの収入は、
しないカップルと比べると25%も高くて、寿命も5年長いって」
「キスの効用ねぇ~。でも私には当て嵌んないなぁ~」
「え? なんで?」
レーナが不思議そうに尋ねた。
「だって、
例えモルヒネ10本打ったって消えない痛み、キスした途端に受けるもん」
レーナは私の発言に首を傾げたが、
すぐさま、心の縺(もつ)れた糸を解く世界へと身を委ねて、瞼を閉じた。
キスフレの彼に恋をした私には、そんなキスの効用は無意味だ。
キスする度に受ける胸の痛みは、鎮痛剤なんかじゃ到底消えなくて、
触れ合うたびに蓄積されるストレスなんて、尋常な量じゃない。
きっと誰よりも短命で私は人生を終えそうだ。
「仕事だけは.....真面目にやらないとなぁ」
唯一持っている自分の場所を失わないためにも、
気を引き締めて仕事に取り掛からないと、なんてレーナの発言で奮起した。
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