kiss 17 [Moon Crying]前半

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☆☆☆ やってきたのは吉祥寺にある、 天然温泉のスパ。 レーナと裸の付き合いをするのは、大学の卒業旅行以来かもしれない。 手ぶらでやって来た私達だったが、 メイク落としから、室内着、何から何までホテル並に揃っている。 月夜を眺めながら大浴場で足を存分に伸ばしてくつろぐと、 縮こまっていた感情が解れて行くのを感じた。 「アーーー。気持ちいい~~」 湯船の中で、思い切り伸びをする。 「温泉なんか久しぶりぃ」 「うん、たまにはいいね~。こういう女子会もさ」 レーナが私の意見に賛同する。 「うん」と私は微笑み、レーナも子供のように、はにかんだ。 「知ってる?」 「なに?」 「キス一回で、モルヒネの10倍の鎮痛効果あるんだって~」 「モルヒネ10倍....」 「しかもキス一回につき、 ストレスが3分の1も解消出来て、 出勤前にキスするカップルの収入は、 しないカップルと比べると25%も高くて、寿命も5年長いって」 「キスの効用ねぇ~。でも私には当て嵌んないなぁ~」 「え? なんで?」 レーナが不思議そうに尋ねた。 「だって、 例えモルヒネ10本打ったって消えない痛み、キスした途端に受けるもん」 レーナは私の発言に首を傾げたが、 すぐさま、心の縺(もつ)れた糸を解く世界へと身を委ねて、瞼を閉じた。 キスフレの彼に恋をした私には、そんなキスの効用は無意味だ。 キスする度に受ける胸の痛みは、鎮痛剤なんかじゃ到底消えなくて、 触れ合うたびに蓄積されるストレスなんて、尋常な量じゃない。 きっと誰よりも短命で私は人生を終えそうだ。 「仕事だけは.....真面目にやらないとなぁ」 唯一持っている自分の場所を失わないためにも、 気を引き締めて仕事に取り掛からないと、なんてレーナの発言で奮起した。
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