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その数週間後、
皆元さんは、あの日、6階のトイレで佐藤と揉めた男と式を挙げた。
寝耳に水な電撃結婚で、既に妊娠中だという発表に第二営業部のみんなは驚いた。
佐藤と俺は、同期である事も関係してるのか、
挙式の参列から参加をし、
二次会からは第二営業部のほぼ全員が、顔を合わせることになった。
3次会が終わり、主役の二人がホテルの部屋へと戻った後、
主役のサポート役を務めて、終始気を張っていた佐藤に、飲み直そうと誘った。
アイツは、ようやく肩の荷が下りたのか、ホッとした表情を俺に向けて、
「いーよ」と言って笑った。
横浜での挙式だったため、
皆元さんが気を利かせて、俺達を含め、会社の同僚の為に部屋を取ってくれていた。
と、いっても使用したのは
独身組のごく僅かで、既婚者組は、さっさと二次会の時点で消えている。
佐藤と俺は、家まで帰る道のりを気にしなくていいからか、
酒の分量も、酔い加減も大して気にしてなかった。
おそらく佐藤は、家に帰るとか、
翌日の心配だとか、そういった考えは、既に頭には無く、
今日起きた出来事の全てを忘れてしまいたい、
ただそれ一点につきるだろう。
「寂しいー。
みどりちゃんが居なくなったら、私一人ジャン~~」
「育児休暇終えて、お局さん戻ってくるから、
それまでの辛抱だな」
などと、俺が言っても佐藤が、終始、
「寂しいよぉー」
とクダを巻いていた。
佐藤にとって、
この結婚式は、ただの同僚の門出の日なんかじゃなくって、
魂を毟り取られるほどの痛みを伴うものだっただろう。
それなのに、未だにそんな素振りも見せず、
自分のオトコと友人が結婚したことに対して、
怒りも悲しみも見せずに、
ただ同僚が結婚して寂しい。としか言わない。
本音を一向に話さない佐藤に、俺は、いささか腹が立った。
「皆元さん、綺麗だったな」
と、意地悪を言っても、
佐藤は、
「うん....スッごくすっごく、可愛かった....」
などと言う。
本当に言いたいことは、もっと別のことのはずなのに、
佐藤は、その部分には触れない。
きっと触れた途端、
コイツは崩壊しそうだと、心の何処かで思った。
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