kiss19 -笑顔の仮面-前半

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----------- 完全に出来上がって泥酔状態の佐藤を、部屋まで送る。 普段、出張で泊まるビジネスシングルよりも、 ずっと広いシングルルームで、ベッドの広さもダブルサイズだった。 窓の外には、みなとみらいの夜景が一望出来た。 先ほど俺が、チェックインした部屋よりも、ずっと眺めが良かった。 皆元さんの佐藤に対してのねぎらいが感じられる部屋を見て、 佐藤の腹の中に抱えたものは、 今も尚、誰にも吐き出さずに埋め込んでいるのだと再確認した。 ......多分、皆元さんは、何も知らない。 佐藤と自分の旦那が繋がってたことを知っていたとして、 あんな満面の笑みを、佐藤へと向ける事が出来るとは思えなかった。 「なあ、佐藤、自分の男を奪われた気分って、どう?」 夢見心地でベッドに倒れ込んだ佐藤に尋ねた。 だが佐藤は答えない。 ただ頭を抱えて、涙を流していた。 眼を閉じている佐藤の頬に触れる。 弾力があって、それでいて指先が沈み込む感覚は、 姉に抱かされた甥のほっぺたと、良く似ていた。 幸福と笑うことしか知らない無垢な人間。 佐藤はそんな仮面を被っていながらも、 赤ん坊のように無垢なんかじゃなくって、 胸の奥で、痛みを抱えて生きている女なんだ。 「阿部さん....…」 佐藤が愛おしい男の名を呼んだ。 ほんの少し開いた瞼。 俺は覗き込むように佐藤の瞳の奥を見つめた。 「キス...…、して.……」 佐藤が、そっと呟く。 それはきっと、 まだ愛している男に向けて告げられた言葉。 けれど、 佐藤は俺を見つめて、もう一度言った。 「して」
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