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完全に出来上がって泥酔状態の佐藤を、部屋まで送る。
普段、出張で泊まるビジネスシングルよりも、
ずっと広いシングルルームで、ベッドの広さもダブルサイズだった。
窓の外には、みなとみらいの夜景が一望出来た。
先ほど俺が、チェックインした部屋よりも、ずっと眺めが良かった。
皆元さんの佐藤に対してのねぎらいが感じられる部屋を見て、
佐藤の腹の中に抱えたものは、
今も尚、誰にも吐き出さずに埋め込んでいるのだと再確認した。
......多分、皆元さんは、何も知らない。
佐藤と自分の旦那が繋がってたことを知っていたとして、
あんな満面の笑みを、佐藤へと向ける事が出来るとは思えなかった。
「なあ、佐藤、自分の男を奪われた気分って、どう?」
夢見心地でベッドに倒れ込んだ佐藤に尋ねた。
だが佐藤は答えない。
ただ頭を抱えて、涙を流していた。
眼を閉じている佐藤の頬に触れる。
弾力があって、それでいて指先が沈み込む感覚は、
姉に抱かされた甥のほっぺたと、良く似ていた。
幸福と笑うことしか知らない無垢な人間。
佐藤はそんな仮面を被っていながらも、
赤ん坊のように無垢なんかじゃなくって、
胸の奥で、痛みを抱えて生きている女なんだ。
「阿部さん....…」
佐藤が愛おしい男の名を呼んだ。
ほんの少し開いた瞼。
俺は覗き込むように佐藤の瞳の奥を見つめた。
「キス...…、して.……」
佐藤が、そっと呟く。
それはきっと、
まだ愛している男に向けて告げられた言葉。
けれど、
佐藤は俺を見つめて、もう一度言った。
「して」
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