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-東野との出逢い-
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東野とは、社会人1年目の時に付き合った。
彼女は其の当時、王寺商事の受付係だった。
王寺商事は取引先相手で、数回訪問した間の彼女との面識は、挨拶程度だったのだが、
彼女は俺が好きだと言って告白してきた。
それは、やっぱオトコなんで、
可愛い女の子に告白されて嫌なわけは無くて、
軽い気持ちで、俺達は、付き合い始めた。
だが、其の頃は、仕事に追い立てられる毎日で、デートをしたのは数回程度、
それも食事をするだけの女友達と、さほど変わらない関係だった。
キスも其の先も思えば、進んでない。
肉体の性的欲求と、
相手を知りたいと思う感情は、常に対を成していて、
俺は彼女に対して、女としての興味が無かったようだ。
もし、好きだという感情があったのなら、
いくら忙しくても時間を割いて会いに行ったし、
帰り際にキスを仕掛けるぐらいのことはしただろう。
冷めた気持ちに気づいてしまった俺は、彼女に別れを切り出した。
「仕事に専念したいから、別れて欲しい」
実際、目まぐるしい程の滂沱の渦中に、
俺は居て、彼女に割く時間さえも惜しかった。
俺の言葉に偽りは無い。
「別れたくない」と、訴える彼女に、
「ごめん」と、告げ、
別れ話を切り出したカフェを後にして、俺達は終わった。
それから暫く仕事に没頭する日々を送り、
王寺商事の担当は、俺では無くなったため、東野と顔を合わせることもなかった。
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