kiss19 -笑顔の仮面-前半

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鼻歌を陽気に歌いながら、 時たま欠伸をする佐藤が、 クリアファイルの束を持ち、 スタックされたコピーをファイルに入れていた。 「あれ? 小栗?」 と、先に尋ねたのは佐藤。 「なにやってんの?」と、佐藤へ愚問を投げかけた。 「ああ、明日出す書類。ちょっと、今日中に終らなくってね」 舌を出して、佐藤は照れくさそうに笑う。 「何で一人でやってんだよ?」 コピー機がある事務所の奥まで、俺は進んだ。 「あ、うん」 「皆元さんは? 事務の仕事は、一緒にやる仕事じゃないの?」 つい、問い詰める口調で質問を投げかける。 「デートだから、私が引き受けたんだけど....」 当然の如くといった調子で、ありえない理由を佐藤は告げる。 「何だそれ、デートだとかいう、しょうもない理由で、人に仕事を押し付けたの?」 「大事だよ、女の子にとってデートは一大事です」 と、皆元さんを肯定したが、 俺は納得出来なかった。 「仕事は仕事、これで給料貰ってるって自覚あるのかな? 彼女」 コピー機から出てくる書類を手に、俺が呟くと、 「優先順位が変わる時もあるんだよ」 と、何故か説き伏せるように佐藤は言った。 なんだか俺のほうが、子供の我侭を言っている気分になる。 「佐藤だって、彼氏いるだろ?」 今も続いているのか判らない、阿部との二人の関係を、確認がてら尋ねた。 「....…いないよ」 そう呟いた佐藤は、いつも見せる笑顔とは異なり、 何処か大人びていて、 何故かその表情を色っぽいなどと感じる。 そう思った途端、 誰も居ないオフィスで二人きりであるという事実が、 自分の気持ちをやけに盛り上げ始めた。 だからといって、佐藤は同僚であって、 女として意識したわけじゃない。 ただ、時折コイツは、 普段の笑顔には見せない部分があって、 自ら人が避けて通ろうとすることを、 何故だか抱え込んでしまう、 超のつくお調子者の馬鹿だということが判明した。 そんな馬鹿が一人で抱え込んでいる仕事量は、 多分、相当の仕事能力を持っている奴だとしても、 簡単に終る量じゃない。 その後、俺は、 のろまな亀だと思っていた佐藤は、 意外と事務のプロなのだと認識することとなった。 そしてコイツの超のつくお調子者度は、 遥かに俺の予想を超えていた。
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