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会場までの道のりを共に歩く。
ほんの少し歩幅が彼が大きいけれど、時折ワンテンポ置いてから歩みを進めていた。
「彼は、いつ帰国予定?」
成宮さんが尋ねた。
「来月あたりになる予定です」
打診は、3年の任期だった。
だが3年の任期を過ぎても尚、彼はフランスに居た。
先日の電話では、まだどう転ぶか判らないとぼやいていた。
会社の考えだ。
私も彼も、歯車として、
全てを引き受けるほか無い。
私はというと、
経理部の仕事も、3年の間に大分会社に貢献出来るようになった。
それに何故だか今年の春からは、リーダーという役職なんかも与えられた。
ミステイクの多い、
超適当人間の私に役職をつけるなど、会社の考えてる事は、さっぱり判らない。
「彼に、ついて行かなくて、後悔してない?」
成宮さんが尋ねる。
「ええ、後悔してません」
笑顔で答えた。
当初は一緒に行くつもりだった。
けれど、
私は、敢えて小栗について行く事をやめた。
自分の場所を捨てられなかったからじゃない。
彼の想いを受け止められる女に、なりたかったからだ。
「今まで、あんまりいい恋愛経験して無くって……」
大好きな人の言葉を疑って恋愛してきて、
いつの間にか愛の言葉を、疑うことが普通になっていた。
「真実と偽りとの境界線が見えなくて、
彼の言葉も、
想いにも、
気づくまでに随分と時間がかかって...
彼の純粋な思いさえ疑ってしまって、
ずっと、
待たせてしまっていました。
たぶん、
彼の言葉を疑った理由は、
愛されることばかりを望んでいたからで、
本当に欲しい愛の形に気づいていれば、
想いを疑わずに済んだんだと、
ようやく気づいたんです」
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