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風が吹く。
止め処無くジェット機が飛び立つ姿を、
空港の屋上展望台から、多くの人がネット越しに眺めていた。
柵から離れた端に設置されたベンチに腰掛けて、一息つく。
飛行機の搭乗時刻までは、まだ余裕があった。
なんとなくベンチの左脇に座ったのは、
いつも右側には佐藤が居て、
俺が左側に居る事が自然だったからだ。
そしてもう俺の右側に、佐藤が座ることは無い。
飛び立つ飛行機を横目に、書類鞄を開いた。
鞄の中から、クリアファイルに挟んで在った、
佐藤が描いた第二営業部の皆を眺める。
俺が手を加えて、
ピンク色の魚に扮した佐藤をプラスした。
俺は、海の中で王様気取っているけれど、
アイツに気持ちを伝える声は持っていなかった。
何度も気持ちを伝えようと、キスをしても、
小さなピンクの魚の心は、捕まえることが出来なかった。
泡となって消えた人魚姫の気持ちが、今なら理解出来る気がする。
一方通行の恋ほど、痛みを感じられるものは無い。
其の痛みから逃れられるのなら、
泡となって消え去りたいと願うのは、
間違っていない気がする。
「俺も.....消えてぇ」
車線をゆっくりと進む、
ブルーの飛行機の車体を眺める。
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