戸惑いと本音。

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    …床にしゃがみこむとゆう奇怪な行動をとったゆずる君の顔を、同じくしゃがみこんだ私が覗き込む。 「…どうしたの?」 「綾乃さん…。いや、好きだった子が…」 …そう言ったゆずる君の言葉に、ハッとして顔を上げた。 この映画の主演俳優は、宮谷だ。 ……どうやら。宮谷目当ての彼女と、映画がかぶってしまったらしい。 「…どこに居るの?」 「…最前列の真ん中。髪をアップにしてる、オレンジ色のワンピースの」 …あぁ、あの子か。 …最前列の真ん中。ふわふわのゆるふわのティーブラウンの髪を頭上でアップにしている女性が目に入った。 彼女の魅力を引き出す明るいオレンジ色のワンピースが、とても良く似合っている。 …友達と来ていたらしい彼女が、隣の子に話かける為に横を向く。 パッチリとカールされた長い睫毛に縁取られた瞳は遠目から見ても大きく、遠目でも彼女の美しさは際立っていた。 「…ホンモノのお姫様って、あんな感じかな?」 …そんな私の声を拾ったゆずる君が顔を上げて、首を傾げた。 「…なんでもない。…とりあえず、座ろっか?此処でしゃがみこんでる方が目立つよ。…暗いし、気づかないよ。…一番後ろの通路側だと帰る時に見つかるかもしれないから、後ろから二番目の一番端っこにでも座ろっか?」 …顔を近づけて、小声で話した私の言葉に、ゆずる君は静かにコクンと頷いた。  
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