戸惑いと本音。

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…ふと顔を上げ隣を見ると、真剣な表情でぎゅっと拳を握って息を飲んでいるゆずる君が目に入った。 …映画に真剣に向き合うゆずる君は、すごく人間っぽい感情に満ちていて、その横顔にすごく安心する。 チラッと彼女の背中を見た瞬間、彼女が振り返った。 …バッチリ目が合った気がするが、気のせいだ。 だって、こんな暗闇で。後ろの席の私達が見えるはずがない。 そう考えて、もう一度スクリーンに目を戻す。 …映像は、クライマックス。 お姫様が王子様のキスで目を覚ますシーンだ。 『……あなたは、俺のただ一人の人だ』 そう言って、手を握って王子が涙を流すシーンでは、映画館の大半の人が涙していた。 ハラハラと頬を伝う涙をゆずる君の手が拭う…。 「実範さん」 …ゆずる君から差し出された、白いハンカチを受け取るとお礼を言った。 「……ありがとう」    
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