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「…え、でも。それじゃあ実範さんが
…」
…慌てるゆずる君に、にっこりと微笑む。
「…私は、体操服で帰るから」
「…でも」
「…お姫様ほったらかして、傘もささないで追っかけてきてくれたお礼だよ」
…そう言って笑った。
だって、本当に嬉しかったんだ。
不安だったから。
…その時。無言で傘を差し出してきたゆずる君に戸惑い、顔を上げる。
「じゃあせめて、傘さして帰って?俺の家駅の近くだから」
「…じゃあ、遠慮なく借りて行くね?」
…そう言って微笑んで、私は傘を受け取った。
田舎であるこの駅の電車は、30分~1時間に一本。
私が登りで、ゆずる君は下り列車らしい。
定期片手に時計を見上げた。
……そろそろ、時間だ。
「じゃあ、電車来るから帰るね?」
「うん。また、メールするね?」
…そう言って手を振ったゆずる君に、私も手を振り返して、改札を潜り抜ける。
ごく、普通の別れ際。
…けど、特殊な関係性の私達。
…地上初だと思う。思い人であるお姫様をほったらかしにして誤解を解く為に魔法使いを追っかけてきてくれた、濡れ鼠の王子様のゆずる君と…
魔法は使えないけど、王子様を舞踏会に連れて行きたい魔法使いの私。
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