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「身なりどころではない。何故、彼女を…」
…怒りで唇を震わせた俺の頬をアデルがゆっくりと撫でる。その指の冷たさに背筋がぶるりと震えた。
「…可哀想なサミュエル。あなたは騙されていたのよあの魔女に」
「魔女…」
…花屋の娘だった。
花のように、笑う子だった。
この婚約者があの花屋に俺が通うことを嫌っていたことは知っていた。
けど…
「そうよ。あなたをたぶらかしたあの魔女。……あの女に会う為に花屋に通っていた事を私が知らないとお思い?サミュエル。…そうとも知らず、会いに来る度に花を持ってくるあなたに幸せを感じていた私も…とんだ、大馬鹿やろうだったわ」
「っ…違う。彼女は…俺が勝手にっ…」
…勝手に好きになったんだ。
けど、声に出すことは出来なかった。
その事を最初に伝えたかった人は、もういない。
…始まりは、婚約者に会う初めて日。
何か贈り物を考えていた俺を呼び止めたのは、路上で花を売っていた彼女だった。
『…お兄さん、うちのお花買って行かない?』
『実は婚約者に贈り物を考えていた所だ。買って行こうかな』
『あら、じゃあ丁度いいわ。婚約者にお花なんて、素敵じゃない?きっと、喜ぶと思うわ』
…そう言った彼女は、日が当たったように笑うのが印象的な少女だった。
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