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…彼女な上手な話術に上手くのせられた俺は、その日、花束を抱えて婚約者の元に向かった。
…彼女の言葉通り、俺の持って行った花束に婚約者はとても喜んだ。
…その笑顔を見た瞬間。魔法にかかったみたいに、俺の心も凄く満たされたんだ。
…それから、俺は彼女の花屋に通うようになった。
買って帰った花束は、ここ数年寝たっきりで動けずにいる俺のおばあ様の心も癒やしてくれた。
…商売だって事は分かってた。彼女にとって俺はただの客だ。
…けど、花を片手に花言葉を教えてくれる彼女は、とても澄んだ瞳をしていた。
『…これ、あげるわ』
…そう言って彼女が俺に手渡した、赤いチューリップの花に目を丸くする。
『…商売品をくれちゃって、いいの?』
『…いいの。ご贔屓にしてくれてるお礼』
…そう言った彼女に、素直に微笑む。
『ありがとう』
……不意に顔を上げた彼女が、此方をじっと見た。
『赤いチューリップの花言葉が何か知ってる?』
その瞳は、真剣でそらされる事はない。
『分からないな。…何?』
…そう聞いた俺に彼女は、軽く首を横に振った。
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