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「あら、セトミちゃん。おかえりなさい。今日は早かったですね」
そのバーのドアを開くと、カウンターで開店準備らしい作業をしていた若い女性が、立地にふさわしくないような上品な声で出迎えた。
「うん、アリサ。思ったより楽に仕事が片付いてさ。さっさと報酬もらって、帰ってきた」
「まあ、そうでしたの。でしたら、お腹減ってます? なにか食べるのなら、準備しますよ」
のんびりとした声に、優しげな顔。彼女――――アリサは、このバーのマスターであると同時に、この建物のオーナーでもある。居住区でも比較的、裕福な家の出である彼女は、親の遺産であるこのマンションを受け継いで、部屋の管理とバーの経営で生計を立てている。とはいっても、このマンションも三階から上はすでに崩壊しているのだが。
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