1295人が本棚に入れています
本棚に追加
壁の時計をチラリと見れば今はまだ11時。
取り急ぎの案件も無いし会議も午後の予定。
何か言われるとしたらさっきのイライラのこと以外に思い当たらない。
目の前に立つ私をゆっくりと見上げた荒木課長が、小さく息を吐くと腕時計を確認して口を開いた。
「歯医者に行ってこい」
「はい?」
お説教を覚悟していたから、歯医者という言葉に驚いて聞き返した。
「だから、歯が痛いなら歯医者に行ってこい。周りの仕事に差し支える」
あれだけ不機嫌を撒き散らしておいてなんだけど、どうして歯が痛いってバレたんだろう?
「でも……」
「しきりに頬を触ってイライラしていたら、誰だって歯が痛いことくらいわかる。今が大事な時なんだから、酷くなる前に治して来い」
自分でも気がつかないうちに頬を触っていたとは……。
説教口調ではあるけど、これがこの人の優しさで。
不器用だからなかなか相手には伝わらなくて、必ず新入社員の女の子はこれで1度は泣く。
.
最初のコメントを投稿しよう!