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恐る恐る、空いた手をショパンの背中に回す。 少しずつ距離を詰め、今ようやく触れられた存在を確かめるように慎重に。 少しでも強引にすればショパンはいとも容易く見えない程に遠くへ行ってしまうだろう。それが分かっているから、自ずと慎重になる。 目尻に溜まっていた涙には気付いていたが、何も言わなかった。 掌に伝わる体温は確かに、ずっと確かめたかったショパンのもの。 「…良かった。じゃあ、もう少しだけこのまま」 安心したような声の後、彼の手は背中から、ショパンの柔らかな髪へ。 もう随分と長い間、髪を撫でられることなんて、無かった。 ショパンはゆっくり目を閉じる。 目尻に留まっていた涙が雨のようにぽたり、と落ちた。 死にも似た眠気と共に、優しい雨音が耳をくすぐる。 窓を叩いていた雨を部屋へ招くように、 ショパンは今、リストへ向かって窓を開けてしまった。 喜んで、濡れよう。 いつかすっかり乾いてしまっても。 再び生まれそうな咳を堪えて、ショパンは雨だれに隠れるように呟く。 「僕を…離さないで」 Fin.
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