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寝覚めが悪いと思えば、朝から雨だった。 ショパンは鉛のように重い体を起こして身支度を整える。 食欲はなかったが、習慣にしているショコラを空っぽの胃袋に少し入れてやった。 彼が部屋に欠かしたことのない花、気に入っているすみれの匂いも今日はどこか湿って、いつもの可憐さが色褪せて感じた。 雨粒が水玉模様を描く窓際で、 水を含んだように重たそうなパリの空を見ながら溜息を浮かべる。 雨だれの音でさえ、ショパンの耳には独立した音名に変換して入ってくるのを、 今更ながら彼は恨めしく思う。 それだけでも鬱陶しいというのに、ガラガラと不躾な馬車の音が響いた。 ふと視線を下に向ければ、黒い泥を跳ねさせて馬車が停まったのが見える。 「……朝から何だっていうの」 馬車から降りてくるのが誰か見ることもせず、ショパンは更に深い溜息をついて呟く。 なんとなく、察しはついていた。 そして、その予想は今までほぼ外れたことがないことも、彼自身分かっていた。 自分からホールへ出て行くのも癪で、ショパンは知らぬ顔をして椅子に腰掛け、 ショコラの続きを味わう。 少しすると、使用人がノックと共に訪問者を告げる。 「フランツ・リスト様がお見えです」 あまりに自分の想像と同じだったのが可笑しくなって、 場違いな笑みを浮かべてしまいそうになる。 コトン、とカップをテーブルに置いた。 「そう…。入ってもらって」 使用人に表情を探られるのも面倒で、 肘掛で頬杖をついたように見せて顔はそらしたまま応える。
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