プロローグ

2/27
前へ
/27ページ
次へ
惑星テトゥーラの主城〈アー〉は雪に埋れている。 元々が寒い星であるから、冬という言葉だけでその季節を表すのは難しいのだが、夏の間に人々が蓄えた薪を1束以上燃やす事で、漸くコップ1杯のお湯が得られるのがテトゥーラの冬である。 アーの城の中である。 銀色の甲冑に身を包んだ騎士達が蜂蜜から作られた蝋燭の弱い光に照らされ、城の正門、大跳ね橋近くにある〈兵溜まりの間〉で白く濁った氷を奥歯で噛み砕いては、喉の渇きを癒してる。 兵溜まりの間は灰色の丸い石で作られた広い空間である。 どうやら、こんな季節に戦いが起こっているらしい。 白い息を大量に吐きながら氷を囓る騎士達の目の下には、決まってどす黒い隈があるあたり、戦況はかんばしくないらしい。 あちらこちらに破れ煤けた家紋を刺繍した旗が打ち捨てられている。 「この場に到っては、先導師を人として認める他はない‥‥」 従者の肩に寄りかかった白髭の騎士は、失くした右腕の方へ体を崩して生き絶えた。 「先導師に頼るなど、愚の骨頂だ!」 叫び立ち上がった隻眼の騎士の目からは滝の様な涙。 早朝である。 やはり、負け戦の様だ。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加