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「よし、黙って滅亡を待つよりは、残りの力をふり絞って動くか」
ガー・フェルエルが立ち上がると、彼が背後にした窓硝子の彼方で3度の閃光を伴う砲声がした。
ガーはそれをチラリと振り返り、豪奢な甲冑に鉄の音をさせて歩き出す。
「ゼゼ爺の魂が天に召されているんだね」
ガーの後を追う赤髪の少年ロウは、白髭の騎士への弔砲(ちょうほう)の響きをそう解釈した。
薄暗い兵溜まりの間は、重い敗戦の空気に沈んでいる。
「ロウ。先導師ボーオとやらは、まだ地下牢にいるのか?」
厚手の木材で出来たドアの取手に手を掛けたガーが、後ろを振り向かずに少年に問うた。
「居るよ。半時前には朝食のパンを届けたもの。何時もの様に、朝早くから石廊の燭台の灯りで、分厚い本を読んでいたさ」
「そうか‥‥」
ガー・フェルエルはロウの答えに頷いた後、ドアの取手を力強くひねった。
「フィリリアだけは守らないと‥‥」
次に吐いた言葉は、ロウ・ハッシには聞こえない小さなものである。
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