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土田はカメラのレンズを閉じ、カバンにかたずける。
「優さんは、どんな花がお好きですか」
突然の質問に困惑する。
普段から聞く側の優には、予想外のことだ。
「バラ」
思わず口にでた。
「そうですか。いい花ですね。では、どんな品種がお好みですか」
頭の中が真っ白になる。
「色は赤が好みですか。大きさは小ぶりが好みですか。棘は大きめが好みですか」
「ごめんなさい。バラの事何も知らないんです」
優の表情を楽しんでいるようだ。
にこやかな笑顔を見せる土田からは、悪戯っ子がみせる遊びがあった。
「そうでしょうな。私の質問に答えられるのは、専門家か愛好家ぐらいでしょう。でも、バラは好きなのですね」
黙ったまま頷く優。
「そうゆうことです。私が写真を始めたきっかけは、そうゆうことです」
「好きだから」
「ええ、とっても」
気力をなくしたように表情が重くなる。
メモを握る手が、力を失う。
「時間もありますので、少し散歩しませんか」
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