第1霊:あぁ、儚き蝉時雨

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「分かれば宜しい。じゃあ、早速始めるか」  言って僕は自宅から持ってきたラケットバッグからテニスラケットを取り出し、鈴梨のもとへとむかう。 僕らがいる公園は遊具が極端に少ない割に、テニスコートやら何やらが設置されており運動系の部活をやっている人はよく活用している場所だ。 誰がいつ整備しているのかは知らないが、僕の知る限りいつも綺麗に整えられたテニスコートにはいり、僕は簡単な準備体操を済ませながらテニスボールをラケットでポンポンとトランポリンのように弾ませて遊んでいる彼女に話しかける。 「中体連は終わったのに練習だなんて、真面目なやつだよなお前も」  「朝の散歩とかと同じよ。これをしないと何かウズウズするの。物足りないって言うかなんていうか分からないけど」  つまりは活発的な彼女にピッタリな体を激しくうごかすテニスが良い習慣として体に刷り込まれてしまったというだけのことだった。 3年生にとって最後の中体連。 彼女はその持ち前の運動神経で決勝に進むも試合中、足を強くひねり思った通りのプレーができず、それが原因で敗北してしまったのだ。  実はその場面を見ていた僕は、彼女が今まで見たことがないくらいツラい表情を浮かべていたのが今でも目に焼き付いている。 「だからって、それで終わりって訳じゃないからね」  当の本人である彼女はサラリと、適当な調子で呟いた。 「高校生になったら私には高体連がある。中体連での失敗は私を更にレベルアップさせてくれる。そんな風に何事もプラス思考で考えていけば、とっても楽しい人生になると思わない?」  何事もプラス思考で考える。 果たして、その当たり前の開運方を一体どのくらいの人が自然と行えるだろうか。 「お前から初めて為になる話を聞いたよ。サンキュー、中学生」  「お礼は、練習で返してね」  任せとけ、という僕の言葉を合図に黄色いテニスボールが高々と空を飛んだ。
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