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「でもね、現実っていうのはいろんな意味でシビアだったよ。なんせ僕みたいな理想を掲げた人間なんて、この世界にはごまんといたんだから」
呼吸が正確に成立していない。
目の前にいる男が放った言葉には、それくらいの衝撃が備わっていた。
つまりは、こういうことだ。
この世界には自分が主人公となるべき存在だと思っている人間が複数いて、それら全てがというわけではないが、だが確かに、あることを証明していた。
「主人公は山ほど存在している」
不才は思考を先読みしたかのように言葉を入り込ませてくる。
「手順は異なっていて、力量だって違う。そもそも割合的には主人公になろうとすら思っていない人のほうが多い。だけど、そんな彼らもまた一種の主人公として成立している」
淡々と。
もはや決まりきったことだとでも言うのか、不才の唇は前もってプログラミングされていたかのように言葉を機械的に放っていく。
「君が知らない裏側の世界には既に主人公という性質を備えた輩が死ぬほどいる」
だから。
「この世界には真の意味で、主人公という存在は消えてしまったんだ」
キチンと主人公という立場にいるのにも関わらず、しかし数が多いから、似たような人達ばかりだからということが原因で、それは一気に脇役というポジションにまでランクダウンする。
「簡単にいったらさ……主人公っていう言葉を誰もが安易に使うもんだから、その意義が失われてきたってことなんだろうね」
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