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普通に考えれば不才の疑問は何ら変哲のないものだった。
なぜ逃げなかったのか?
不良に襲われれば全力をもって逃走したくせに、なぜそれ以上の異常さを醸し出している存在の場合は、同じ様にそうしなかったのか?
それに加え、自分はあそこで戦うという意味の分からない選択をした。
意味が分からない。
自分がとった行動が、だけではない。
なぜ、実際にそういう行動をとっているときに、そういった疑問を抱かなかったのかという事だ。
「どうだい?他人から改めて言われてみるとおかしいと思うだろう?」
感情のこもっていない、その2つの瞳が、僕を真っ直ぐに見据えてくる。
「君はさ……勘違いをしていたんだよ」
首をコキコキと鳴らしながら、不才は気だるげに、そう話す。
「もしかしたら、これは不思議な男に出会って、色々と事件に巻き込まれるとかいう、あの典型的なパターンの伏線じゃないか?みたいなね」
気だるげな口調とは違い、話している内容そのものは本質をどこまでも見抜いているものだ。
口の中の水分が急速に失われ、喉がはりつく。
生理的嫌悪感に苛まれながらも、しかし僕は手に持っているミネラルウォーターを口に含もうとはしなかった。
いや、出来なかった。
自分のとる些細な行動が、物事の本質を語っている不才の口を止めてしまうかとおもってしまったから。
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