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「今まで散々願っていた状況だ。君がそこでみすみす無視するわけがない。いや、普段の君だからこそ無視できなかったんだ」
まるで立場が逆のようだ。
なぜ、自分の本質を赤の他人が言って聞かせているのか。
だが、この男は知っている。
僕が意識的かどうかは知らないが、今の今まで封じ込めてきた僕の真意を。
「後は簡単さ。不思議な男が現れるまで時間を稼げばいい。だけど大声を張り上げて助けを呼んだりとかじゃない。全力で逃走するなんてもってのほかさ。だから君は………」
「……戦った」
自然と口が動いていた。
いや、自然とではない。
自分の代わりに真意を代弁してくれたお礼だといわんばかりに、僕の心がそうさせたのだ。
それからの思考回路は至って滑らかなものへと変わっていた。
まるで、不才の言葉によって遮られていた障害物が撤去されたかのように。
僕は、僕という存在について、まともに考えられるようになっていた。
「飽き飽きしてたんだろうな…代わり映えのない日々に」
「そんなもんさ。学生さんなんかは特にね」
不才は短くなったタバコを床に落とし靴底で踏みにじりながら、そう続ける。
「僕もそうだったからね。君と同じ考えをもっていて、そして実際にこうして力を得た実証例さ」
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