第3霊:僅かな現実味、極度な異常さ

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決して無視することのできない一言だった。 不才 無救という存在は僕が願っていたことへの証明だった。 自分が無意識のうちに構築していた理想像を、実際にその過程すら同じように追い求めた結果だった。 主人公という立場にいる男だった。 しかし。 「霞んで見えるだろう?」 それこそ自分をあざ笑うかのように。 不才という主人公は自身の何ともぼやけた曖昧な存在価値を、そう評価する。   まるで曇った窓のようだった。 確かに窓という存在を果たしているのに、だがその意義が薄れているような……言うなれば酷く中途半端な状態なのだ。 いくら布巾で拭いても、クレンザーを使っても、何をしてもその曇りはとれず、景色を見渡すことすら出来ないそれは決して完璧な窓という存在にはならない。 「僕にも君みたいに思っていたことがあったよ。僕には人を救う力がある、なら僕は主人公となるべき存在だ……ってね」   あの頃は若かったと昔話を言って聞かせる年寄りのような口調だった。 そして、その言い方から察するにその顛末は決してプラスではないだろうことは易々と予想ができた。
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