恋した瞬間

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込み上げて来る思いを 必死に抑える。 マズイだろ。 一応俺には付き合ってる 女だっているんだし…。 そう心で思っても、 キッチンウインドウを 自分の携帯で嬉しそうに 写真におさめている彼女の 横顔が眩しくて。 目を細めながらポツリと 口から出た言葉。 「ねぇ…前島さんてさ… 付き合ってる人とかいるの?」 俺の質問に彼女は フフッと笑みを見せて それに答える。 「付き合ってる人はいませんけど 好きな人はいます」 …え? 付き合ってる人がいなかったら そのまま俺はここで彼女に 自分の自覚した思いを 打ち明けようかという所まで 気持ちが盛り上がっていただけに 思わず肩がガクリと落ちた。 慌ててそれを取り繕って。 「そ…そうなんだ」 やっと返した返事に 彼女はキラキラの笑みを見せた。 「はい!」 俺ではなく、遠くを見つめながら 返事をした前島さんの姿に それは小野さんじゃないよと また否定された気がして。 苦笑いしてその話はもう辞めた。 この時に… 彼女に思いを告げなかった事を 後々こんなにも後悔するなんて 思いもせずに。
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