恋した瞬間

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それを確かめたくて…。 俺は二人が第二会議室に 入って行くのを確認してから その後を追った。 あくまでも資料を取りに 来たというふりをして わざと足音を立てながら 開いた資料室のドア。 棚の影から慌てて離れた ふたつの影。 「…小野?何か用かな?」 とぼけて俺に問いかける 冬木部長の背中の後ろで 慌てて身なりを整えている 彼女の姿に堪らない気分になった。 「ええ、ちょっと資料を探しに」 「そう。 じゃあ前島も指示した 資料を探して。 見つかったらまた声を掛けてくれ」 そう言って冬木部長は 何事もなかったかのように 資料室を出て行った。 まだ整え切れなかった 彼女のシャツのボタンが いつもよりひとつ多く 外されていて…。 鎖骨の少し上に刻み付けられた 赤い痣が白い肌にはクッキリと 見えている。 耐え切れなくなって 俺は彼女から視線を外し 棚の上の方から適当な資料を 手に取って無言のまま 資料室を出た。 何も考えずに取ったその資料は 偶然にも冬木部長が 入社して1年目のデザインコンペで No.1を獲得した リビングテーブルの図面。 いつかコイツを越えてやる。 仕事も…そして彼女の事も。 心で覚悟を決めて 俺はそのまま総務課へと足を進める。 「真田さんちょっと」 俺の声に、気まずそうに歩み寄った 彼女が今にも泣きそうな顔で 俺を見上げた。 「ゴメン。もうこれ以上無理」
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