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影は少し苛立った様子で、また指先をくるんと動かした。手のひらを自分の方に向け、人差し指だけで“こいこい”という仕草をする。
すると男は胸元を押さえていた手をダラリと落とし、そこを突き出すような姿勢になった。だが、まだ呻き苦しんでいる。
「しつこいな。その男は、そんなに居心地がいいか?」
影がふっと嘲笑した瞬間のことだった。男のワイシャツ、その胸元がジワリ……と赤く滲み始める。
ブツン、と水の入ったビニールが破れたような音が響いた。
「うわあああ!」
男がびくびくと上半身を仰け反らせ、べたりと壁にその身を預ける。
──影は、男の胸元に咲いた真っ赤な花を見て、ようやく微笑んだ。
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