Prologue

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   男の足元は、噴き出したどす黒い血で染まっている。壁にも血が飛び散り、途端に辺りは生臭さが立ち込めた。その臭いをクン……と嗅いで、影はほうと小さな溜め息をつく。  太陽の光が強すぎて、照り返しで真っ白にも思える都会の景色。昼間だった筈のその光景は、一瞬にして夜のものとなった。  影は壁に張り付く血を指先で拭うと、そっとそれを口元に運び──そして、ぺろりと嘗めた。 「残念だな。二度と、愉悦に浸ることは叶わない」  皮肉のように呟いて、影は都会の谷間にある更に濃い闇の中へと歩みを進める。  その真上に、月齢零の朔月を戴いて。 .
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