Prologue

2/11
99人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
  「──行きはよいよい 帰りは怖い……」  か細い母の震える声を聞きながら、幼子は顔を上げた。  母に手を引かれ、家を出たのはもう数十分前のことだった。5歳にも満たない幼子が散歩を楽しむ、というには少し苦痛に感じる時間が既に過ぎている。  幼子は足の裏に痛みを感じていたが、それを母に告げることはなかった。  ぺたし、ぺたし……と、母がいいというまで歩くしかないことは、幼子にも判っていた。くりくりとした黒く大きな瞳。それを彩る睫毛がぱちぱち、と忙しなく瞬く。  疲労を感じると共に、睡魔がやってきていた。それもその筈、幼子は普段習慣にしている昼寝をさせてもらえなかった。  眠ろうと思えば眠れたのだろうが、母のすすり泣く声が気になって眠れなかった。  何故泣いているの。  それを訊ねてもよかったのだろうが、幼子はその理由も何となく判っていた。 .
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!