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男はこめかみから脂汗を流し、息も荒く生ぬるいコンクリートの壁に縋りつくようにして立っていた。
人混みを逃れ、ビルとビルの谷間に逃げ込んだものの、まだ油断は出来ない。緊張感を背に負いながら、男はそれでもスーツの内ポケットから煙草を取り出す。
汚れた手が気になったが、今はそれどころではない。とにかく息をつきたい。
煙草の巻き紙が薄汚れるのも構わず男は煙草を咥えると、落ち着かない手つきで100円ライターの石をカチカチと鳴らす。滑る手元に苛立って、思わずフィルターを咬んだ。
「ちくしょう、なんで俺がこんな目に……」
指先が震え出すと同時に、先端から煙が立ち上る。男がようやくホッとした瞬間、コツン、と足音が響いた。
「……!」
咄嗟に呼吸を止め、男はゆっくりと振り返った。
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