Prologue

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   さっき、自分が駆け込んできたその隙間に、黒い影が佇んでいる。それを見た瞬間、男の口から煙草が落ちた。 「み、見逃してくれ……お、俺が何をしたって言うんだ……!」  黒い影は男の言葉が耳に入らないのか、そのままゆっくりと、少し左右に揺れながら一歩一歩進み始めた。 「見ろよ、今、真っ昼間じゃねえか! ルール違反だろ!? 夜、夜になれば……!」 「ここは結界の外だ。それに、逃げたお前に規律は適応されない」  かすれた声が、影から漏らされる。男は震えながら後退し、影からもう目を離せなかった。  人の形はしているものの、気配が違う──。  男はゴクリ、と息を呑んだ。逃げられるとは思っていない。でも、どうにかならないのだろうか。  今になって、命の価値が判ろうとは。 .
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