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「結界から出れば、どうにかなると思ったか」
「……た、頼む……戻れって言うなら戻る! 何でも言うことを聞くから、頼むから、命だけは……!」
汚れたアスファルトを、影が踏みしめる。ジャリ、と土埃の擦れる音がした。
やけに耳障りなその音しか聞こえなかったことに気付き、男はハッとする。
──真昼の都会なのに、他の生き物の気配がしない──……。
今の状況を察し、男は更にガタガタと震える。初夏だというのに、男の身体は歯の根が噛み合わなくなる程の寒さまで感じ始めていた。
「──お前が徒(いたずら)に殺めてきた数々の人達も、そう言いたかっただろうな。命を奪われるのだと、判ってさえいれば」
「だ、から……あれは、あれは、やつらの為に……!」
ジャリ……と男が後退し、影がその分確実に歩み寄る。
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