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夏休みには、大学構内に人がいなくなる。だが、養父母の下で育ってきたのぞみは、家族に気を遣ってしまう為、帰りづらいのだった。
養父母に邪魔にされているわけではなかった。お互いに愛情と感謝があるし、それが通い合っているという実感もちゃんとある。
だがのぞみの中にどうしても越えられない一線というものがあって、思春期の頃は息苦しくて仕方なかった。
大学に入って安いマンションを借り、他人の中で暮らす方がのぞみにとっては楽だったのだ。
その事情を知るや、盆と正月には必ず田舎に帰る習慣のあった零斗が誘ったのだった。
「帰省しづらいなら俺の田舎においで」……と。
「……そりゃあ、実家に女の子を連れて帰ろうっていうんだ。ただの友達ってわけにはいかないからね。付き合ってる女性なんだ、って紹介はする。でも、のぞみがまだそういう気分じゃないなら、無理をする必要はないよ? 俺は、きみの気持ちを無視して付き合っていきたいわけじゃないから」
「違うの! お返事、迷ってたのは……ちゃんとできるのかなって、それが、不安で……」
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