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それを聞いて、零斗の中にずっとあった妙な緊張感がようやく解れた。
「そうか……俺が気付かなかったのが悪かったよ。ごめん」
「れ、零斗さんは悪くないの……もう、成人したっていうのに、人の前に出る礼儀作法の心配しなくちゃいけない自分が自分でちょっと、情けなかったっていうか……」
「心配ないよ。俺がずっとついてるから。のぞみをひとりにしたりしない」
零斗がはっきりとそう言うと、ふたりの間に独特の甘い空気が漂い始める。
感情の高ぶりで、のぞみの瞳がうるうると揺れた。
それを見てしまって、健康な20代の男がもう平静でいられる筈もなく──零斗はそのままのぞみの身体を抱き寄せて、彼女の震える口唇をそっと塞いだ。
それにぎこちなく応えるように、のぞみは零斗の白衣の中のシャツをそっと掴む。
「……楽しみだな。どうしよう」
「れ、零斗さん……緊張させるようなこと、言わないで」
「大丈夫。本当に。うちの実家は、気楽に過ごせる家だから」
零斗の言葉に、のぞみは顔を赤くしながら頷いた。
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