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ニュースで凄惨な事件があった場所、というのは見たくなくてもよく見かけるものだ。だが、生番組の真っ最中に現場に急行……というのはあまりない。
あったとしても、「後ほどお伝えいたします」と濁されるのが常ではないのか。
髪を振り乱して走っていくレポーターの男性の後ろ姿を、カメラは必死に追っていた。
「……っ」
ガタガタ、と機材の揺れる音がして、カメラは見るものに何も気を遣っていない様子でグルリ、と風景を仰いだ。
のぞみは固唾を呑んでその光景を見つめる。
その瞬間、能天気な音楽が携帯から鳴った。
ビクンと飛び上がりそうになってしまった。今の一瞬でニュースに集中しきってしまっていたようだ。
「もしもし」
『のぞみ?』
「零斗さん!」
確認もせずに出たものだからホッと胸を撫で下ろし、のぞみは携帯を耳元に当てたまま、またテレビの画面をチラッと見た。
『のぞみ、今テレビ見てる?』
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