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のぞみが慌てて手を引っ込めると、クモの方も驚いたようにササッとベッドのヘッドボードの上まで走っていった。
アシダカグモは巣を張らずに徘徊する習性を持っていて、他の害虫を捕食することで駆除してくれる益虫と言われている。
見た目が不気味なだけで、何ということはない。そう、見かけなければの話だが。
「も、もう……いるのはいいけど出て来ないでよ……!」
のぞみがしっしっ、と手で追い払うような仕草をすると、クモは聞き分けたように音もなくヘッドボードの裏側へと移動する。
が、脚1本の先だけちらりと見えている。「これでいい?」というような隠れ方だ。
のぞみはこのクモが自分の部屋に棲み付いていることを以前から知っていた。
名誉の負傷なのか、一番後ろの左脚が1本足りない。
毎回同じ特徴で、他のクモではない。今のようにふいに現れてのぞみを驚かせるのはよくある話だった。
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