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「はは、相変わらず神経質だなぁ」
研究室に顔を出すなりげっそりと疲れ切っているのぞみの顔を見て、先客は爽やかに笑った。
吾妻零斗、26歳。
東葉大学の職員である零斗は、ここのところこの研究室に詰めている。
サラリとストレートの黒い髪、涼やかな目元。
整った甘めの童顔のせいでよく女生徒に理由もなく囲まれてしまう零斗は、学生と間違えられることを気にしていた。
各所に出入りしている為、いつも白衣でいることも手伝っているのだろうが。
ここでは植物や微生物、ひいては真正細菌などの研究に勤しんでいるらしいのだが、文系であるのぞみにはさっぱりで、目の下に隈を作った学生がブツブツと小声で呟きながら青々とした桜の葉の表面をひたすら麺棒で撫で付けている光景などは、少し異様だった。
「そんなに気になるなら、電車の時間をずらせばいいのに」
「でも、早いのは辛いし、遅いと遅刻しちゃうし……」
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