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そんなふたりが恋愛関係に発展するのに、時間の経過はそう重要なことではなかった。
ただ、職員と学生という関係がブレーキになっていることは確かで、付き合い始めたからといって瞬く間に深い仲──というわけでもなく、ゆっくりと恋を育んでいた。
まるで陽だまりのような、やわらかく暖かい恋。のぞみと零斗は、この関係を気に入っていた。
「ねえ、やっぱり恥ずかしい。自分でやるよ……」
「駄目だよ。俺の楽しみなんだから、取り上げようとしないで」
今にも鼻歌を歌い出しそうな程上機嫌な零斗は、のぞみが他人の肌に触れた腕をウェットティッシュでさらさらと拭き始める。
これが、ふたりの常となっていた。
そして、ふたりの精一杯。
「ねえ、零斗さん」
のぞみは顔を上げ、下から零斗の顔を覗き込む。
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