53人が本棚に入れています
本棚に追加
2013年 夏 【唐沢美咲】
2013年 夏
【唐沢美咲】
──────
足元を見て、思わず舌打ちをしそうになってしまった。
──今日の為に穿いてきたブランドデザインのパンストが、伝染している。
朝、このパッケージを開いた時、あまりの薄さに心配にはなった。
穿く為に広げている時、指先のささくれに引っかかりそうになったくらいだったから。
唐沢美咲、28歳。
都内の商社の経理課に勤め始めて、もう6年目になる。
入社した時はすべてがバラ色に見えた。仕事が楽しくて、行く先々でちやほやされるのも嬉しくて。
一生こんな生活が続くんだ──と情けない錯覚をしたのは、ほんの一瞬のこと。
世間で自分の年齢を言えば「まだ若いじゃない」と誰もが口を揃えて言う。
女は、25を過ぎればだんだん価値が下がっていくものだ。
美咲はそれを嫌と言う程感じていた。
.
最初のコメントを投稿しよう!